階名と音度
約 13 分
この節のねらい
音階の各音には固有の名前と役割があります。主音・導音といった呼び名は位置ではなく機能を表しており、移動ドで歌う階名はこの機能を耳と体に結びつける道具です。固定ドとの違いも整理します。
- 音階の7つの音度の呼び名(主音・上主音・中音・下属音・属音・下中音・導音)を言える
- 主音・属音・下属音の名前が五度関係から来ていることを説明できる
- 移動ドと固定ドの違いと、それぞれが何に向いているかを説明できる
- 短調で第7音が上がったときに呼び名が変わることを説明できる
音階の音を「第1音」「第5音」と番号で呼んできましたが、それぞれには固有の名前があります。そしてその名前は位置ではなく役割を表しています。
7つの音度の呼び名
| 音度 | 日本語 | 英語 | 意味の由来 |
|---|---|---|---|
| 1 | 主音 | tonic | 調の中心 |
| 2 | 上主音 | supertonic | 主音のすぐ上 |
| 3 | 中音 | mediant | 主音と属音の中間 |
| 4 | 下属音 | subdominant | 主音の5度下 |
| 5 | 属音 | dominant | 主音の5度上 |
| 6 | 下中音 | submediant | 主音と下属音の中間 |
| 7 | 導音 | leading tone | 主音へ導く |
名前の由来は五度関係にある
この名前の付け方には一貫した論理があります。主音を中心とした五度関係です。
- 属音(第5音)は主音から完全5度上
- 下属音(第4音)は主音から完全5度下
C を主音とすると、5度上は G(属音)、5度下は F です。F は C の4度上でもあるので第4音の位置に来ますが、名前は「5度下」という関係から付いています。「下属音」は第4音だから subdominant なのではなく、主音の下の dominant だからです。
同じ論理で「中音」「下中音」も説明できます。
- 中音(第3音)は主音と属音のちょうど中間
- 下中音(第6音)は主音と下属音のちょうど中間
つまりこの呼び名の体系は、主音・属音・下属音という3つの柱を先に立てて、その間を埋める形で作られています。そしてこの3つの柱は、次のユニットで扱う三機能(トニック・ドミナント・サブドミナント)の名前そのものです。呼び名の体系がすでに和声の機能を予告している、というわけです。
主音・属音・下属音の関係を聴く
確認: 1つめは主音 C から属音 G(5度上)。2つめは主音 C から下属音 F(5度下、ここではオクターブ内に収めて4度上)。3つめは3つを続けて。C を中心に、G と F が左右対称に配置されていることを耳で確かめてください。
確認
ト長調の属音は何ですか?
導音と下主音の呼び分け
第7音の呼び名には注意が必要です。主音との距離によって名前が変わります。
- 主音まで半音 → 導音(leading tone)
- 主音まで全音 → 下主音(subtonic)
長音階の第7音は主音まで半音なので導音です。ところが自然的短音階の第7音は全音離れているので、導音とは呼びません。下主音です。
前の節で「短調には導音がないから第7音を上げた」と説明しましたが、より正確には下主音を半音上げて導音に変えたということになります。呼び名の変化が、和声上の機能の変化を正確に反映しています。
下主音と導音の違い
確認: 1つめは自然的短音階の第7音(下主音)から主音へ。全音の距離なので、上がりきる力が弱いです。2つめは半音上げた導音から主音へ。半音の引力が強く、明確に「着いた」と感じられます。呼び名の違いがこの体感の違いに対応しています。
イ短調の自然形
階名 — 移動ドと固定ド
音度の呼び名は理屈を語るときの言葉ですが、歌うときには別の道具を使います。階名(ドレミ…)です。
ここに2つの流派があります。
移動ド(movable do)
主音を常に「ド」と歌う方式です。
- ハ長調なら C = ド
- ト長調なら G = ド、A = レ、B = ミ…
- 変ホ長調なら E♭ = ド
利点は明快です。「ミ」と歌えば常に第3音(長3度)を意味し、「ソ」は常に属音を意味します。つまり階名が機能と直結します。調が変わっても同じ歌い方で同じ機能を指せるので、旋律の構造が耳と体に定着します。
短調では2つの流儀があり、主音を「ラ」と歌う方式(平行長調基準)と「ド」と歌う方式があります。日本の学校教育では前者が多く使われます。
固定ド(fixed do)
音名と階名を1対1で固定する方式です。C は常に「ド」、D は常に「レ」。調が何であっても変わりません。
利点は、楽器の操作と直結することです。ピアノで「ド」と言えば常に同じ鍵盤なので、器楽の練習では迷いがありません。絶対音感の教育とも相性がよいとされます。
どちらを使うか
対立するものではなく、目的が違う道具です。
| 方式 | 向いていること |
|---|---|
| 移動ド | 旋律の機能を耳で捉える、聴音、移調、和声の理解 |
| 固定ド | 楽器の運指、読譜の速度、absolute な音高の把握 |
このカリキュラムで扱う和声と聴音には移動ドが向いています。「導音は主音へ半音で解決する」という規則は、移動ドで歌えば「シ→ド」という体感として身につきます。固定ドだと調ごとに歌う音名が変わるため、機能の共通性が見えにくくなります。
移動ドで機能を聴く
確認: ハ長調とト長調で「ド–ミ–ソ–ド」を歌う位置を鳴らしています。音の高さは違いますが、移動ドではどちらも同じ「ド ミ ソ ド」です。3つめの「シ→ド」(導音→主音)も、調が変わっても同じ機能を指すことを確かめてください。
C E G C
確認
移動ドで、変ホ長調(Eb major)の「ソ」はどの音ですか?
音度は和音の材料表になる
最後に、この節が次のユニットにどうつながるかを示します。
音度に名前が付いていると、和音を音度で語れるようになります。第1・3・5音を積めば主和音、第5・7・2音を積めば属和音。音名(C–E–G、G–B–D)ではなく音度で語れば、どの調でも同じ言葉が使えます。
これがユニット3で扱うローマ数字の考え方です。ローマ数字は音度に基づく和音の記法で、この節で身につけた「音度=役割」という発想がそのまま拡張されます。
スケール辞典で音度を確認する ト長調を出して、第5音(属音)が D、第7音(導音)が F♯ であることを鍵盤で確かめてください スケール(音階)辞典 → コードの上でどの音度が使えるかを見る コードを選ぶと、その和音の構成音(コードトーン)と音階音がハイライトされます。音度と和音の関係を先取りできます メロディーノートガイド →練習問題
答えは理論エンジンで検算しています。まず自分で解いてから採点してください。
- 1
音階の第5音の呼び名は何ですか。
- 2
音階の第4音の呼び名は何ですか。
- 3
第7音が「導音」と呼ばれるのは、どんな性質があるからですか。
- 4
移動ド(movable do)で「ミ」と歌う音は、ト長調では何の音ですか。
- 5
自然的短音階の第7音の呼び名は何ですか。
到達確認
次に進む前に、上の項目を自分の言葉で説明できるか確かめてください。