neirocca sound-first music theory

音階と調 · 節 4

五音音階とブルース

約 14 分

この節のねらい

五音音階は7音から2音を抜いた音階です。抜くことで半音の衝突が消え、どの音を弾いても外れにくくなります。世界中で独立に発生した理由と、ブルーススケールの青い音がなぜ理論の枠から外れるのかを扱います。

  • メジャーペンタトニックが長音階から第4音と第7音を抜いた形だと説明できる
  • 五音音階に半音が含まれないことと、それが「外れにくさ」を生むことを説明できる
  • マイナーペンタトニックがメジャーペンタトニックの平行形であると説明できる
  • ブルーノート(♭5)が機能和声の枠外の要素であることを説明できる
この節の内容
  1. 半音を作っていた音を抜く
  2. 世界中で独立に発生した
  3. マイナーペンタトニックは平行形
  4. ブルーススケール — 理論の枠から外れる音
  5. 抜く/足すという操作の一般性

ここまでの音階はすべて7音でした。この節では音を抜くことで生まれる音階を扱います。

7音から2音を抜いた5音の音階を五音音階(ペンタトニック)と呼びます。単純化された音階のように見えますが、抜く音の選び方に明確な理由があります。

半音を作っていた音を抜く

長音階には半音が2か所ありました。第3–4音間第7–8音間です。

ここで第4音と第7音を抜くと、両方の半音が消えます。

123568
図1: C メジャーペンタトニック。長音階から第4音 F と第7音 B を抜いた5音(第4・7音が欠けている)

残った音の間隔は 全 – 全 – 短3度 – 全 – 短3度 になります。最小の間隔が全音で、半音がひとつもありません

これが五音音階の本質的な性質です。前のユニットで確認したとおり、短2度(半音)は最も強い不協和です。それが構造的に発生しないので、どの2音を同時に鳴らしても激しくぶつからないことになります。

半音がないとどうなるか

確認: 1つめは五音音階から任意に選んだ2音の同時鳴らし。2つめは長音階に含まれる半音(E–F)の同時鳴らしです。1つめはどの組み合わせも許容できる響きなのに対し、2つめは明確にぶつかります。五音音階が「外れにくい」理由がこれです。

長3度 — 協和

世界中で独立に発生した

五音音階は、地理的に離れた多くの文化で独立に見られます。中国の伝統音楽、日本の民謡、スコットランドやアイルランドの旋律、アフリカ系アメリカ音楽、アンデス、インドネシアなど。

なぜ同じ構造が独立に出現したのか。有力な説明は、いま確認した半音の不在です。

  • 同時に鳴らしても不協和になりにくい → 合奏や即興が容易
  • 隣接音の間隔が広い → 旋律として歌いやすく、覚えやすい
  • 音数が少ない → 楽器の設計や調律が簡単

つまり五音音階は「7音の劣化版」ではなく、扱いやすさに最適化された構造だと言えます。実際、ロックやポップスのギターソロの大半は五音音階の上で作られており、現代でも第一線の道具です。

マイナーペンタトニックは平行形

五音音階でも、平行調の関係がそのまま成り立ちます。

C メジャーペンタトニック(C D E G A)の音をA から並べ直すと、A C D E G になります。これが A マイナーペンタトニックです。

1♭345♭78
図2: A マイナーペンタトニック。C メジャーペンタトニックと同じ5音で、主音が A に変わった形

主音からの音程で見ると 1 – ♭3 – 4 – 5 – ♭7 です。短3度と短7度を含むので短系の響きになります。

この2つが同じ音の集合であることは実用上とても重要です。ギタリストが「A マイナーペンタトニックのポジション」を1つ覚えれば、それはそのまま「C メジャーペンタトニック」としても使えます。1つの指の形が2つの調で使えるということです。

確認

G メジャーペンタトニックと同じ音の集合になるマイナーペンタトニックの主音は?

ブルーススケール — 理論の枠から外れる音

マイナーペンタトニックに1音加えるとブルーススケールになります。加えるのは第4音と第5音のあいだの音、主音から見て♭5(減5度)です。

C なら C E♭ F G♭ G B♭ の6音です。

1♭34♭55♭78
図3: C ブルーススケール。強調した G♭ がブルーノート。F と G のあいだを埋める半音として通過的に使う

この ♭5 をブルーノートと呼びます。ここで重要なのは、この音は機能和声の枠内で説明できないということです。

  • 長調の音階音でもない
  • 短調の音階音でもない
  • 借用和音のような和声的な説明も付かない

にもかかわらず、ブルースやロックでは不可欠な音です。理由は、ブルースの音程感覚がもともと平均律の12音に収まっていなかったことにあります。ブルースの歌唱やギターのベンド(弦を押し上げる技法)では、♭3 や ♭5 が平均律の音程より微妙にずれた高さで歌われます。ブルーススケールは、その平均律に収まらない音を鍵盤で近似したものです。

だからブルーノートは「そこで止まる音」ではなく、通過する音として使われます。F → G♭ → G と滑らせる、あるいは G♭ から G へベンドする。止まらずに動くことで、平均律の格子からのはみ出しを表現しています。

ブルーノートは通過する音

確認: 1つめはマイナーペンタトニックだけの上行。2つめは ♭5 を加えて F→G♭→G と通過させた形です。3つめは ♭5 で止まった形で、こちらは中途半端に響きます。ブルーノートが「動く音」であることを確かめてください。

5音

確認

ブルーノート(♭5)が機能和声の理論で説明しにくいのはなぜですか?

抜く/足すという操作の一般性

この節で見た操作を整理すると、音階の作り方には2つの方向があることが分かります。

  • 抜く: 7音 → 5音(半音を消して扱いやすくする)
  • 足す: 5音 → 6音(枠外の音を加えて表現を拡張する)

この視点は次の節(日本・アジアの音階)でそのまま使えます。日本の伝統音階の多くも五音音階ですが、抜く音の選び方が違うため、まったく別の性格になります。「どの2音を抜くか」で音階の世界が決まる、という比較の軸をここで持っておいてください。

スケール辞典で五音音階を鳴らす major / minor pentatonic / blues を切り替えて、鍵盤のハイライトがどう変わるかを見てください。抜けている音の位置が視覚的に分かります スケール(音階)辞典 → アメイジング・グレイスを五音音階で鳴らす この曲はもともと五音音階で書かれているとされます。実際に変換しても違和感が少ないことを確かめてください スケール変換ツール →

練習問題

答えは理論エンジンで検算しています。まず自分で解いてから採点してください。

  1. 1

    C メジャーペンタトニックの構成音を、下から5音並べてください。半角スペース区切りで答えてください。

  2. 2

    A マイナーペンタトニックの構成音を、下から5音並べてください。半角スペース区切りで答えてください。

  3. 3

    メジャーペンタトニックで抜かれる2音は、長音階の第何音と第何音ですか。

  4. 4

    C ブルーススケールの構成音を、下から6音並べてください。半角スペース区切りで答えてください。

  5. 5

    五音音階が世界中の多くの文化で独立に発生した主な理由として、もっとも妥当なのはどれですか。

0 / 5

到達確認

次に進む前に、上の項目を自分の言葉で説明できるか確かめてください。

日本とアジアの音階

出典・参考

  • Blue note — Wikipedia — ブルーノートが12平均律で正確に表せない微分音的な音であること、鍵盤楽器では半音まで下げて近似するほかないこと、および起源をアフリカ系の音楽実践に求める研究について