旋律作法
約 15 分
この節のねらい
非和声音を7種そろえたので、今度は書く側に回ります。歌える旋律に共通する骨組みと、跳躍の扱い、頂点の置き方を、実際に鳴らしながら確かめます。
- 旋律を骨組みと装飾の2層に分けて考えられる
- 跳躍のあとにどう動くべきかを、聴きやすさの理由から説明できる
- 旋律の頂点を1つに絞る理由を説明できる
- 音域と順次進行の比率という2つの目安を、自分の旋律に当てはめられる
ここまでの3節は分析でした。すでにある旋律を見て、どの音が和音の外かを判定する作業です。
この節では向きを変えます。自分で旋律を書くときに、これらの道具をどう使うか。分析の知識は、そのままでは書く力になりません。
旋律は2層でできている
歌える旋律を作るいちばん確実な方法は、2段階に分けて書くことです。
- 骨組みを決める — 和音構成音だけで、大きな輪郭を作る
- 装飾を足す — 骨組みのあいだを非和声音で埋める
この順序が大事です。装飾から書き始めると、和音と噛み合わない音が居座ってしまいます。骨組みが和音構成音でできていれば、あとから何を足しても和声から外れません。
2つの図は同じ形です。最初と最後が C、途中の山が G。変わったのは、その間を跳ぶか歩くかだけです。
骨組みと、装飾を足したもの
確認: 輪郭が同じであることを確かめてください。どちらも C から始まって G まで上がり、C へ帰ります。1つめは跳躍だけなので輪郭がはっきりしますが硬く、2つめは間が埋まって滑らかですが輪郭はぼやけません。骨組みが良ければ装飾は後から足せる、という順序を体感してください。
構成音のみ
跳躍のあとは、歩いて戻る
旋律で跳躍を使うと、その瞬間に音域が一気に動きます。放っておくと、跳び越した範囲に穴が空いたように聴こえます。
そこで原則が1つあります。大きく跳んだら、反対方向へ順次進行で戻る。
理由は2つあります。1つは歌いやすさです。跳躍を続けると声で追うのが難しくなります。もう1つは形です。跳んだ先から歩いて戻ると、跳躍が「山の頂上へ一気に登った」という意味を持ちます。跳びっぱなしだと、ただ移動しただけになります。
跳躍のあとの処理を比べる
確認: どちらも C から G へ5度跳びます。1つめはそこから歩いて降りるので、跳躍が山になります。2つめはさらに上へ跳ぶので、どこが頂点なのか決まらず、落ち着きません。跳躍そのものが悪いのではなく、跳んだあとの処理で印象が決まります。
反行して埋め直す
確認
旋律が C4 から A4(長6度上)へ跳びました。次の音として原則にかなうのはどれですか。
頂点は1つだけにする
旋律にはいちばん高い音があります。この音をどこに何回置くかが、フレーズの形を決めます。
目安は単純です。1つのフレーズに頂点は1つ。そして中央より後ろに置く。
最高音が何度も出てくると、聴き手はどこが山なのか判断できません。1回しか到達しない音があると、そこへ向かう上りと、そこから降りる下りという構造が自然に生まれます。
頂点が1つある旋律と、最高音が繰り返される旋律
確認: 1つめは G4 が1回だけ、しかも後半に出てきます。そこが山だと自然に分かります。2つめは G4 が3回出てくるので、どこが目的地なのか決まらず、平坦に聴こえます。使っている音の種類はほとんど同じなのに、配置だけでこれだけ違います。
G4 は7音目に1回だけ
2つの数値的な目安
旋律作法には感覚的な話が多いのですが、書きながら確認できる目安が2つあります。
音域は、フレーズ1つでおおむねオクターブから10度に収めます。これは人の声で無理なく歌える幅です。器楽でも、この幅を超えると旋律というより走句に聴こえ始めます。
順次進行の比率は、全体の7割前後を目安にします。跳躍が3割を超えると輪郭が断片的になり、逆に跳躍がまったくないと音階練習に近づきます。
| 目安 | 範囲 | 外れるとどうなるか |
|---|---|---|
| 音域 | 8度〜10度 | 広すぎると歌えない。狭すぎると単調になる |
| 順次進行の比率 | 7割前後 | 少ないと断片的。多すぎると音階練習に聴こえる |
| 頂点 | フレーズに1つ | 複数あると山が決まらない |
これらは規則ではなく初期値です。意図があって外すのは構いません。ただし外すときは、なぜ外すのかを言えるようにしておきます。
確認
8小節のフレーズを書いたところ、跳躍が全体の6割になりました。どう考えるべきですか。
反復進行 — 同じ形を高さを変えて繰り返す
旋律を伸ばす手段として、跳躍や装飾より効くものがあります。同じ形を、高さを変えて繰り返すことです。これを反復進行(ゼクエンツ)といいます。
反復進行が強いのは、1つの素材で長さを稼げる点です。新しい素材を次々に出すと聴き手は覚えきれませんが、同じ形が高さを変えて戻ってくると、既知のものとして受け取れます。しかも高さが上がっていくので、繰り返しているのに前へ進む感じが出ます。
反復進行と、毎回違う形
確認: 1つめは3音の形を1段ずつ上げて3回並べています。同じ動きが繰り返されるので、上っていく階段として聴こえます。2つめは同じ音域を使いながら形をばらばらにしたもので、どこへ向かっているのか掴めません。長さは同じでも、記憶に残る量が違います。
同じ形が3回
繰り返しの回数は3回までが目安です。4回以上続けると機械的に聴こえ始めます。3回目で形を崩して着地させると、そこがフレーズの終わりになります。
この「同じ形を覚えさせて、変化させる」という考え方は、次のユニットの動機そのものです。旋律作法と形式論は、ここでつながっています。
非和声音は「量」ではなく「置き場所」
最後に、ここまでの3節と結び付けておきます。
非和声音をたくさん入れれば旋律らしくなる、というものではありません。どこに置くかが効きます。
- 拍の頭に置く(倚音・強拍経過音) → 緊張が強く、感情が乗る
- 拍の裏に置く(弱拍の経過音・刺繍音) → 流れが滑らかになる
- 和音の境界に置く(掛留音・先取音) → 和音の変わり目がずれて、推進力が出る
書くときは、まず骨組みを和音構成音で作り、いちばん聴かせたい1か所にだけ強い非和声音(倚音や掛留音)を置き、残りは弱拍の経過音と刺繍音でつなぐ。これが最も外れにくい手順です。
ステップシーケンサーで旋律を組み立てる まず和音構成音だけで骨組みを打ち込み、そのあと間の音を足してみてください ステップシーケンサー → 書いた旋律を非和声音ラベリングにかける 自分で作った旋律を入力すると、どの音がどの型の非和声音になっているかが分かります 非和声音ラベリング →これでユニット6は終わりです。ここまでは1つのフレーズの内側の話でした。次のユニットでは視点を引いて、フレーズがどう集まって曲になるかを扱います。
練習問題
答えは理論エンジンで検算しています。まず自分で解いてから採点してください。
- 1
大きな跳躍のあと、旋律はどう動くのが原則ですか。
- 2
ハ長調の I の上を、旋律が C4 → G4 → F4 → E4 と動きました。F4 は何ですか。
- 3
旋律の頂点(クライマックス)について、古典的な旋律作法の目安はどれですか。
- 4
ハ長調で IV から I へ進むあいだ、旋律が F4 → F4(タイ)→ E4 → F4 → E4 と動きました。2番目の F4 は何ですか。
- 5
旋律を「骨組みと装飾」の2層で考えるとき、骨組みにあたるのはどれですか。
到達確認
次に進む前に、上の項目を自分の言葉で説明できるか確かめてください。