協和と不協和
約 14 分
この節のねらい
協和・不協和は好みの問題ではなく、周波数比の単純さに根拠があります。完全協和・不完全協和・不協和の3分類と、完全4度が文脈次第で扱いが変わる歴史的な理由、そして不協和が「解決を要求する」という和声の駆動力までを扱います。
- 協和と不協和を3分類し、どの音程がどこに入るか言える
- 協和の度合いが周波数比の単純さに対応することを説明できる
- 完全4度の扱いが文脈で変わる理由を説明できる
- 不協和が「解決を要求する」という性質が和声を駆動していることを説明できる
音程を2つ同時に鳴らすと、溶け合って安定して聞こえるものと、ぶつかって落ち着かないものがあります。前者を協和、後者を不協和と呼びます。
これは「好きか嫌いか」ではありません。物理的な根拠があり、そして音楽の構造を駆動する仕組みでもあります。
3つの分類
西洋音楽理論では、音程を3段階に分けます。
| 分類 | 音程 | 性格 |
|---|---|---|
| 完全協和 | 完全1度・完全5度・完全8度 | 溶け合って、色を持たない |
| 不完全協和 | 長3度・短3度・長6度・短6度 | 協和するが、明暗の色を持つ |
| 不協和 | 長2度・短2度・長7度・短7度・すべての増減音程 | 緊張し、動きたがる |
3分類の境目を耳で確認するのが、この節でいちばん重要な作業です。
3分類を順に聴く
確認: 上から下へ、協和度が下がっていきます。完全5度とオクターブは「1つの音のように溶ける」、3度と6度は「溶けるが明暗の色がある」、2度・7度・三全音は「ぶつかって次に行きたくなる」。この3段階を耳で区別できるようにしてください。
完全協和 — ほぼ1つの音
確認
短6度はどの分類に入りますか?
周波数比が単純なほど協和する
なぜこの3分類になるのか。周波数比の単純さが対応しています。
| 音程 | 周波数比 | 分類 |
|---|---|---|
| 完全1度 | 1:1 | 完全協和 |
| 完全8度 | 1:2 | 完全協和 |
| 完全5度 | 2:3 | 完全協和 |
| 完全4度 | 3:4 | (両義的) |
| 長3度 | 4:5 | 不完全協和 |
| 短3度 | 5:6 | 不完全協和 |
| 長2度 | 8:9 | 不協和 |
| 短2度 | 15:16 | 不協和 |
比に使われる数字が小さいほど協和度が高い、という明快な対応があります。1:2 や 2:3 のような単純な比では、2つの音の倍音がよく重なり合い、耳には「溶け合った1つの響き」として届きます。15:16 のような複雑な比では倍音がずれてぶつかり、うなりが生じます。
この関係は古代ギリシャのピタゴラス派が弦の長さの比として発見したもので、音楽理論のなかで最も古く、かつ最も物理に根ざした部分です。
なお表の比は純正な比で、現代の平均律では厳密にはこの値になりません。平均律は全部の調を実用にするために各音程をわずかにずらしているので、たとえば長3度は 4:5 より少し広くなっています。それでも協和の序列は保たれます。
完全4度は文脈で扱いが変わる
表で完全4度を「両義的」としたことに気づいたかもしれません。ここは音程の分類で唯一すっきりしない部分です。
完全4度の周波数比は 3:4 で、長3度(4:5)より単純です。物理的には協和度が高いはずです。実際、中世の音楽では完全4度は協和音程として扱われました。
ところが機能和声(バロック以降の和声)では、完全4度は文脈によって不協和として振る舞います。とくに低音に対する4度は、解決を要求する音程として扱われます。もっとも分かりやすい例が、和音の第2転回形です。
C–E–G の低音を G にした G–C–E(第2転回形)では、低音 G に対して C が完全4度になります。この形は不安定で、多くの場合そのままでは終われず、次の和音へ進もうとします。この不安定さがカデンツの直前で使われる特徴的な形を生み、ユニット4で扱う話題になります。
完全4度の両義性を聴く
確認: 1つめは2音だけの完全4度で、単独で聴けば十分に協和して聞こえます。2つめは和音の第2転回形(低音 G に対して C が4度)で、同じ4度が含まれているのに不安定で「まだ終わっていない」感じがします。3つめが解決した形です。音程の性格が文脈で変わることを確かめてください。
単独では協和して聞こえる
つまり協和・不協和は音程だけで決まらず、文脈が関与します。この事実は、分類表を暗記するだけでは足りないことを示しています。分類は出発点で、実際の判断は和声の文脈で行われます。
確認
完全4度が不協和のように振る舞いやすいのは、どんな場面ですか?
不協和は「失敗」ではなく推進力
初学者がもっとも誤解しやすいのがここです。不協和は避けるべきものではありません。
もし音楽が協和音程だけで作られていたら、どうなるでしょうか。すべてが安定していて、どこへも行く理由がない。緊張がないので、解決の喜びもありません。
不協和の役割は方向を作ることです。不協和な響きは「このままではいられない」という感覚を生み、聴き手に次の和音への期待を作ります。そして期待どおり(あるいは意外な形で)協和へ解決したとき、音楽的な満足が生まれます。
この緊張と解決の交替が、和声が時間的な芸術として機能する仕組みです。西洋和声の中心にある属七の和音(G7 など)は、まさに三全音という不協和を内蔵することで主和音への強い推進力を得ています。
不協和が解決を生む
確認: 1つめは主和音(安定)。2つめは属七の和音で、内部に三全音(B–F)を含むため強い緊張があります。3つめでもう一度主和音に戻ると、明確な「帰ってきた」感覚が生まれます。この往復が和声の基本運動です。
協和
分類は時代とともに変わってきた
最後に歴史的な注意を1つ。この節で示した分類は機能和声(およそ17〜19世紀)を基準にしたものです。
- 中世では完全4度が協和、3度は不協和寄りに扱われた
- 19世紀後半から不協和の許容範囲が急速に広がった
- 20世紀の作品では、三全音や長7度が緊張ではなく安定した響きとして使われることがある
- ジャズでは長7度・9度・11度が日常的な響きで、むしろ単純な三和音のほうが物足りなく感じられる
つまり協和・不協和の境目は絶対的な自然法則ではなく、様式に依存した約束です。物理的な根拠(周波数比)は普遍ですが、「どこまでを協和として許すか」は音楽文化が決めてきました。
この視点は、ユニット9「20世紀以降とポピュラー」で古典理論を相対化するときの足場になります。ここでは機能和声の基準を確実に押さえることに集中してください。基準があってはじめて、そこからの逸脱が意味を持ちます。
音程計算ツールで協和度を確かめる ツールは各音程の協和度を表示します。同時再生(和声的)と順番再生(旋律的)を切り替えると、不協和の感じ方が同時のほうが強いことも分かります 音程計算ツール → 協和度の違いを耳で分類する練習 音程当てに慣れたら、「いま鳴ったのは協和か不協和か」だけを判定する練習も効きます。音程名より先に分類が分かるようになります 耳トレーニング →これでユニット1(音程)は終わりです。次のユニットでは、音程を並べて音階を作ります。音階は「音程の並びのパターン」であり、ここで測り方を覚えた道具がそのまま使えます。
練習問題
答えは理論エンジンで検算しています。まず自分で解いてから採点してください。
- 1
次のうち、完全協和音程はどれですか。
- 2
長3度はどの分類に入りますか。
- 3
三全音(増4度・減5度)はどの分類ですか。
- 4
完全8度(オクターブ)の周波数比はどれですか。
- 5
不協和音程が音楽で果たしている主な役割は何ですか。
到達確認
次に進む前に、上の項目を自分の言葉で説明できるか確かめてください。
出典・参考
- Consonance and dissonance — Wikipedia — 協和・不協和の分類が時代と文脈によって変わってきたこと、完全4度の両義的な扱いについて