ブルース12小節とポピュラー音楽の形式
約 15 分
この節のねらい
ブルースとポピュラー音楽にも定型があります。クラシックと同じ対比と回帰の原理が働きますが、区切りの置き方と反復の考え方が違います。
- 12小節ブルースの和音配置を、4小節×3行の枠組みで説明できる
- 3行目の V – IV – I がブルース固有の進行である理由を説明できる
- AABA 形式のブリッジが果たす役割を説明できる
- ヴァース・コーラス形式が AABA と何を入れ替えた形なのかを説明できる
前の節までで扱ったのは、西洋クラシックの形式でした。
しかし対比と回帰という原理は、クラシック固有のものではありません。ブルースにもポピュラー音楽にも定型があり、そこでも同じ仕組みが働いています。違うのは、区切りの置き方と反復をどう扱うかです。
12小節ブルース — 4小節×3行
12小節ブルースは、おそらく世界でもっとも演奏されている形式です。12小節を4小節ずつ3行で数えます。
| 行 | 小節 | 和音 | 役割 |
|---|---|---|---|
| 1行目 | 1–4 | I – I – I – I | 提示 |
| 2行目 | 5–8 | IV – IV – I – I | IV へ動いて戻る |
| 3行目 | 9–12 | V – IV – I – V | 頂点から降りて折り返す |
この3行は、歌詞の構造と対応しています。1行目で一文を歌い、2行目で同じ文をもう一度歌い、3行目で応答する。AAB という詩の形です。
音楽の側でも同じことが起きています。1行目と2行目は I が中心で近い響きですが、2行目は IV から始まるので少し変化があります。そして3行目で V という最も遠い場所まで行き、そこから降りてきます。
12小節ブルースを通して聴く
確認: 4小節ごとに3つの区切りがあることを意識してください。最初の4小節は動かず、次の4小節で一度 IV へ持ち上がって戻り、最後の4小節で V まで上がってから一気に降りてきます。12小節目でまた V に戻るので、終わりきらずに最初へ帰りたくなるはずです。
I×4 / IV IV I I / V IV I V
3行目の V – IV – I は、古典和声では避ける動き
ここに理論上おもしろい点があります。ユニット4で、ドミナントからサブドミナントへ戻る動きは古典和声では避けると学びました。V の緊張が IV でほどけてしまい、進行が後戻りするからです。
ところがブルースの3行目は、まさに V – IV – I です。避けるはずの動きが、この形式では特徴になっています。
矛盾ではありません。規則は様式の内側でだけ有効だという例です。古典和声の禁則は「古典派の様式で書くなら」という前提付きの約束であって、音楽一般の法則ではありません。ブルースは別の様式なので、別の慣習が働きます。
3行目を2通りで比べる
確認: 1つめはブルースの定型どおり V – IV – I と降りてきます。2つめは古典和声の順序 IV – V – I に直したものです。2つめのほうが終止としては強いのですが、ブルースらしさは失われます。どちらが正しいかではなく、様式が違うと聴こえ方が違う、という例として聴いてください。
下行して折り返す
確認
12小節ブルースの最後の小節に V が置かれるのはなぜですか。
AABA 形式 — 32小節の定番
ポピュラー音楽の古典的な形が AABA です。8小節の A を3回、あいだに8小節の B を1回。合わせて32小節になります。
B はブリッジ(またはサビ、中間部)と呼ばれます。役割は三部形式の B とまったく同じです。A の繰り返しに飽きが来る前に対比を置き、最後の A を新鮮に戻す。
A を2回続けたあとに B を置くのには理由があります。1回だけでは A が定着せず、3回続けると飽きます。2回で覚えさせて、3回目の前に休ませるのが、記憶と飽きのちょうどよい配分になっています。
ブリッジの終わりは半終止にするのが定石です。前の節で見たとおり、開いたまま終わることで最後の A の回帰が解決になります。ここでもクラシックとまったく同じ原理です。
AABA のブリッジ前後を聴く
確認: A の8小節、ブリッジの8小節、そして A の再現を続けて鳴らします。ブリッジで別の場所へ動き、最後が属和音で止まるところに注目してください。そこから A が戻ってくると、帰ってきた感じがはっきりします。ブリッジの最後で一度宙に浮くことが、この効果を作っています。
8+8+8。B の終わりは V
ヴァース・コーラス形式 — 主役が入れ替わる
現代のポピュラー音楽で主流なのは ヴァース・コーラス形式です。
構成は「ヴァース → (プリコーラス)→ コーラス」を何度か繰り返し、途中にブリッジを挟む形です。ここで AABA と決定的に違うのは、どこが主役かです。
| 主役 | 繰り返される部分の位置づけ | |
|---|---|---|
| AABA | A(主題) | A が主役。B は箸休め |
| ヴァース・コーラス | コーラス(サビ) | 戻ってくるコーラスが曲の頂点 |
AABA では A が主役で、B は変化を付けるための脇役でした。ヴァース・コーラス形式では、繰り返し戻ってくる部分そのものが頂点になります。ヴァースはそこへ向かう助走です。
この違いは、旋律の音域にも現れます。ヴァースは低めに抑え、コーラスで音域を上げる。前のユニットで扱った「頂点は1つ、後半に寄せる」という旋律作法が、曲全体の規模で適用されている形です。
確認
ヴァース・コーラス形式で、ヴァースの音域をコーラスより低く抑えるのはなぜですか。
どの形式にも共通していること
ブルース、AABA、ヴァース・コーラス、そしてクラシックの二部・三部形式。表面上はまったく違いますが、共通する設計があります。
- まとまりの単位は4小節と8小節。2の累乗の枠が基準になる
- 区切りは終止形が作る。半終止で開き、正格終止で閉じる
- 対比のあとに回帰させる。戻ってくることが満足を生む
- 開いたまま終えたものへ戻ると、回帰が解決になる
このユニットで見てきたのは、結局この4点です。形式の名前を覚えることより、どこで区切り、何を戻すかという設計判断を読み取れるようになることのほうが大事です。
形式ビューアでブルースと AABA を見る 「ブルース12小節」と「AABA」を切り替えて、行ごと・セクションごとに再生してみてください。どちらも対比部分が半終止で終わることが表示されます 形式ビューア → コード進行プレイヤーでブルースを鳴らす テンポとキーを変えて、同じ12小節がどう聴こえるかを試してください コード進行プレイヤー →これでユニット7は終わりです。ここまでで、音の物差しから曲全体の設計まで一通りそろいました。次のユニットからは半音階的和声に入り、調の外にある和音を扱います。
練習問題
答えは理論エンジンで検算しています。まず自分で解いてから採点してください。
- 1
12小節ブルースの基本形で、5小節目と6小節目に置かれる和音はどれですか。
- 2
12小節ブルースの3行目(9〜12小節目)の典型的な和音進行はどれですか。
- 3
ハ長調で、あるコーラスの最後の2和音が C から G でした。この終わり方はどれですか。
- 4
AABA 形式のブリッジ(B)の役割として最も適切なものはどれですか。
- 5
ヴァース・コーラス形式が AABA 形式と決定的に違う点はどれですか。
到達確認
次に進む前に、上の項目を自分の言葉で説明できるか確かめてください。