neirocca sound-first music theory

カデンツの聴き分け

約 14 分

この節のねらい

終わり方を耳で判別する練習です。最後が主和音か、手前がドミナントか、ソプラノが主音か。3つの分岐で5種類を絞り込む手順を扱います。

  • 終止形を「最後の和音」「手前の和音」「ソプラノ」の3点から絞り込める
  • 半終止だけが持つ特徴を説明できる
  • 偽終止と変格終止を、どこで期待が裏切られるかの違いから説明できる
  • 完全正格終止と不完全正格終止を分ける手がかりを挙げられる
この節の内容
  1. 3つの分岐で絞る
  2. 「終わった感じ」の強さで並ぶ
  3. 偽終止と変格終止 — 裏切られる場所が違う
  4. 完全と不完全はソプラノで決まる
  5. 短調にはもう1種類ある
  6. 実際の曲では和音が増える

前の節は和音を1つずつ聴き分ける練習でした。この節では2つの和音のつながりを聴きます。

U4 で扱ったカデンツの分類を、譜面を見ずに判別する訓練です。単なる分類練習ではありません。カデンツが分かるということはフレーズの切れ目とその強さが分かるということで、これは曲の構造をとらえる基礎になります。

3つの分岐で絞る

前の節と同じで、いきなり5つから1つを選ぼうとしないことです。3つの質問を順に立てます。

質問1 — 最後は主和音か。

主和音でなければ、それは半終止です。ここで終わりです。半終止だけが主和音で終わらないので、最初の分岐でいちばん大きく候補を切れます。

質問2 — 主和音でないなら、代わりに何が来たか。

主和音の代わりに vi が来ていれば偽終止です。ここも一発で決まります。

質問3 — 主和音なら、手前は何か。

手前が属和音なら正格終止、下属和音なら変格終止です。

VI
図1: 完全正格終止。ソプラノが導音から主音へ着地する

「終わった感じ」の強さで並ぶ

3つの質問に答えられなくても、終わった感じの強さである程度は当たります。

終止形終わった感じ印象
完全正格終止★★★★★完全に閉じる
不完全正格終止★★★★閉じるが余韻が残る
変格終止★★★着地するが押しが弱い
偽終止★★着地しかけて逸れる
半終止途中で止まる

5種類の終わり方を聴き比べる

確認: すべてハ長調で、直前までの2つの和音は同じです。最後の和音だけが違います。上から順に「終わった感じ」が弱くなっていきます。1つめは完全に閉じ、最後の半終止はまるで文の途中で止まったように聴こえるはずです。どこで話が終わり、どこで続くのかを耳で判断する練習です。

IV – V – I

確認

ある進行を聴いたところ、最後の和音がまったく落ち着かず、話が途中で止まったように感じました。まず疑うべき終止形はどれですか。

偽終止と変格終止 — 裏切られる場所が違う

この2つは混同されやすいので、分けて整理します。

偽終止着地点が裏切られます。属和音まで来て「次は主和音だ」と身構えたところで、vi へ逸れる。手前は期待どおりで、最後だけが違います。

変格終止経路が違います。着地点は主和音で期待どおりですが、そこへ至る道が属和音ではなく下属和音です。導音を通らないので、押し込まれる感じがありません。

手前最後裏切られるもの
偽終止属和音(期待どおり)vi(違う)着地点
変格終止下属和音(違う)主和音(期待どおり)経路
Vvi
図2: 偽終止。バスが C ではなく A へ動く。上3声は主和音とほとんど同じ

図2を見ると、偽終止では上3声が主和音とほとんど同じであることが分かります。C と E は両方の和音に含まれるので、変わるのはバスだけです。「着地したはずなのに何かが違う」と感じるのはこのためで、バスを追えば判別できます

完全と不完全はソプラノで決まる

正格終止の中の2種類は、和音の並びが同じなので和音だけでは区別できません。分かれ目はソプラノの着地点です。

  • ソプラノが主音に着く → 完全正格終止
  • ソプラノが第3音や第5音に着く → 不完全正格終止

(最後の主和音が転回形になっている場合も不完全になります。)

完全と不完全を聴き比べる

確認: 和音の並びはどちらも V – I でまったく同じです。違うのはいちばん上の声部の着地点だけ。1つめは主音の C に着くのでぴたりと閉じます。2つめは第3音の E に着くので、閉じてはいるものの余韻が残ります。曲の途中の区切りには不完全、いちばん最後には完全を使うのが定型です。

ソプラノが C に着地

いちばん上の声部は耳に届きやすいので、意識して追えば聴き取れます。旋律の最後の音が主音かどうかを聴くと言い換えてもよいです。

確認

曲の途中の区切りに不完全正格終止が使われ、最後に完全正格終止が使われるのはなぜですか。

短調にはもう1種類ある

ここまでの5種類に加えて、短調でだけ現れる形があります。フリギア終止です。

iv の第1転回から V へ進む形で、終わり方としては半終止の一種です。ただし普通の半終止とは聴こえ方が違います。

iv6V
図3: ハ短調のフリギア終止。バスが Ab から G へ半音下がる

聴き分けの手がかりはバスの半音下行です。普通の半終止ではバスが属音へ跳ぶか全音で動きますが、フリギア終止では上から半音で滑り込みます。同時にソプラノが半音上がることが多く、外声が反対方向に開きながら閉じる独特の身振りになります。

名前はフリジア旋法に由来しますが、この終止形自体は短調の文脈で使われるもので、フリジアンの曲に限られるわけではありません。

普通の半終止とフリギア終止

確認: どちらもハ短調で属和音に着いて止まります。1つめはバスが F から G へ全音上がります。2つめはバスが Ab から G へ半音下がります。着地点は同じ属和音なのに、上から降りてくるか下から上がるかで印象がまったく違うことを聴いてください。フリギア終止のほうが古めかしく、張り詰めた感じがします。

iv – V(バスは F → G)

実際の曲では和音が増える

練習では2つの和音だけを鳴らしますが、実際の曲ではカデンツの手前にも和音が並びます。それでも判断すべきは最後の2つだけです。

ただし1つ注意があります。主和音の第2転回が属和音の手前に置かれることがあります。U4 で扱ったカデンツの6-4です。この場合、耳には「主和音 → 属和音 → 主和音」と聴こえますが、最初の主和音は転回形で、属和音の飾りとして働いています。カデンツとしては V–I の正格終止です。

バスを追うと判別できます。カデンツの6-4ではバスが動かず、属和音と同じ音に留まります。

終止形トレーナーで聴き分けを練習する 「聴いて答える」モードにすると和音名が伏せられます。まず基本3種から始めて、正答率が安定したら偽終止とフリギア終止を足してください 終止形トレーナー →

これで単発の識別(音程・和音・カデンツ)が揃いました。次の節からは書き取りに入ります。聴こえたものを記号の列として再構成する作業です。

練習問題

答えは理論エンジンで検算しています。まず自分で解いてから採点してください。

  1. 1

    ハ長調で G の和音から C の和音へ進みました。これは何終止ですか。

  2. 2

    ハ長調で G の和音から Am の和音へ進みました。これは何終止ですか。

  3. 3

    5種類の終止形のうち、半終止だけが持つ特徴はどれですか。

  4. 4

    ハ長調で F の和音から C の和音へ進みました。これは何終止ですか。

  5. 5

    完全正格終止と不完全正格終止を耳で区別するとき、最も有効な手がかりはどれですか。

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到達確認

次に進む前に、上の項目を自分の言葉で説明できるか確かめてください。

旋律聴音