エキゾチックで妖しい響きの音階|ペルシャ音階とは(実はペルシャ音楽の音階ではない?)
怪しく異国的なメロディーを作りたい人へ。半音が連なる「ペルシャ音階」(ド・レb・ミ・ファ・ソb・ラb・シ)の仕組みと使い方を、音を鳴らしながら解説します。実はこれ、本物のペルシャ音楽の音階ではないという話も。
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ペルシャ音階とは?
映画やゲームで「砂漠」「中東」「妖しい儀式」のシーンが流れると、決まって聞こえてくる、あの暗くて引っかかるメロディー。スケール辞典で**ペルシャ音階(Persian scale)**と呼ばれているのが、その正体のひとつです。ド・レb・ミ・ファ・ソb・ラb・シ(度数で言うと 1・b2・3・4・b5・b6・7)の7音でできていて、半音でぶつかる箇所がいくつも連なるため、ひと聴きで「異国的」「不穏」と感じる強烈な個性を持っています。
まず聴いてみる
理屈より先に、その「妖しさ」を耳で確かめるのが早いです。上の試聴ボタンで、まず普通のド・レ・ミ(メジャー)を聴き、次に同じドから始まるペルシャ音階を聴いてください。3番目の音(ミ)は同じなのに、すぐ隣のレbとソbが半音でぶつかり、急に砂漠の風景が浮かぶような響きになります。続けて「きらきら星」をペルシャ音階で鳴らすと、誰もが知るメロディーが一気に異国の儀式音楽のように化けるのがわかります。
スケール辞典でも確認できます。
- スケール辞典を開く
- ルートを C、スケールを「ペルシャ」にする
- 鍵盤をなぞる。レb–ミ、ファ–ソb、ラb–シ のように、隣り合う半音の塊が見える
- 同じルートでメジャーに戻し、半音のぶつかりが消えて普通の明るさに戻る違いを聴く
どんな音階か(仕組み)
ペルシャ音階の個性は、半音(隣り合う鍵盤)の塊が複数あることに尽きます。
- 構成音: ド・レb・ミ・ファ・ソb・ラb・シ(C・Db・E・F・Gb・Ab・B)
- 半音でぶつかる箇所: ド–レb、レb–ミ(実際はミとレbの間が増2度の跳躍)、ファ–ソb、ラb–シ–ド付近
特に ド–レb–ミ と ソb–ラb–シ のあたりは、半音と1音半(増2度)の跳躍が交互に出てきます。この「半音でくっつく音」と「ぐっと跳ぶ音」の組み合わせが、西洋の長調・短調にはない引っかかりを生み、独特の妖しさになります。明るくも暗くもない、どこか「異物感」のある響き、と言うとイメージしやすいかもしれません。
本当に「ペルシャ音楽の音階」なの?という話
ここがこの記事のいちばん大事なところです。スケール辞典やギター教本に載っている「ペルシャ音階」は、実はペルシャ(イラン)の伝統音楽そのものの音階ではない、という指摘があります。
東京大学アジア研究図書館(U-PARL)のコラム「その『ペルシア音階』、本当にペルシアの音階ですか?」では、ギター教本などで「ペルシャ音階」と呼ばれるものを調べ、実際には呼び名がバラバラで、複数の別々の音階が同じ「ペルシャ音階」として流通していることを指摘しています(参考: その「ペルシア音階」、本当にペルシアの音階ですか? - U-PARL)。
そして決定的なのは、本物のイラン古典音楽は**ダストガー(dastgah)と呼ばれる旋法システムで成り立っているという点です。ダストガーは単なる「音階」ではなく、旋律の型や即興の枠組みを含む大きな体系で、しかも12平均律の鍵盤では出せない微分音(マイクロトーン)を使います。代表的なのがコロン(koron)**と呼ばれる「4分の1だけ低い」音で、ピアノやギターの12音には存在しません(参考: Dastgah - Wikipedia)。
つまり、12音の鍵盤で弾ける「ペルシャ音階」は、ペルシャ音楽の”雰囲気”を西洋音楽の言葉で再現しようとしたラベルであって、イラン古典音楽が実際に使っている音そのものではない、というわけです。
ここを誤解しないことが大切です。「異国的な響きを手軽に出す道具」としては非常に優秀ですが、「これがペルシャ音楽の音階だ」と言ってしまうと正確ではありません。便利なエキゾチック表現の引き出しとして使いつつ、本物のペルシャ音楽は別の体系(ダストガーと微分音)でできている、と知っておくのがちょうどいい距離感です。
どんなところで聴くか
この音階(と、それに似た「ダブルハーモニック」系の響き)は、映画・ゲーム・アニメで「中東風」「砂漠」「異国の市場」「妖しい魔術」を表現したいときの定番です。冒険ゲームの砂漠ステージ、ファンタジー作品の異国の宮殿、サスペンスの不穏な場面など、「ここは遠い異国です」と一瞬で観客に伝えたいときに効果を発揮します。クラシックの一部やサーフロックの名曲「ミザルー(Misirlou)」のような曲も、近い響きを持っています。
作る人向け:手早く「異国感」を出す
オリジナル曲に怪しさ・異国感を足したいとき、ペルシャ音階は最短ルートのひとつです。
- メロディーをこの7音だけで作ると、それだけで一気に異国的になります
- 半音でぶつかる音(レb–ミ、ソb–ラb あたり)を意図的に強調すると、妖しさが増します
- ただし全編これで作ると「やりすぎ」になりがちなので、サビや特定の場面だけに使うと効果的です
聴く人向け:妖しさの正体を聴き分ける
映画やゲームで「異国的だ」と感じたとき、その正体はたいてい連続する半音のぶつかりにあります。長調・短調にはない「すぐ隣の音にくっつく」動きと、急に1音半跳ぶ動きが交互に出てきたら、ペルシャ音階やその仲間(ダブルハーモニックなど)の可能性が高いです。「異国っぽい=半音の塊」と覚えておくと、聴いた曲の正体を自分で見抜けるようになります。
次に試すこと
知っているメロディー(童謡でも構いません)を、頭の中でこの音階に当てはめてみてください。普通のメロディーが急に妖しく化ける感覚がつかめます。次に、スケール辞典でペルシャ音階とメジャー、さらに他の暗い音階(ハーモニックマイナーなど)を同じルートで鳴らし、「半音の塊がどこにあるか」で響きがどう変わるかを聴き比べましょう。そして忘れずに——この音階は「異国の雰囲気を出す便利な道具」であって、本物のペルシャ音楽そのものではない、という前提も一緒に覚えておくと、音と知識の両方が深まります。
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